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子宮底圧迫法(クリステレル胎児圧出法)

子宮底圧迫法(クリステレル胎児圧出法)

子宮底圧迫法(クリステレル胎児圧出法)は、広く行われていますが、エビデンスの集積は十分ではありません。
少なくとも「産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023」と「再発防止委員会からの提言」に反するクリステレル胎児圧出法は、危険と考えるべきでしょう。
不適切なクリステレル胎児圧出法の実施について注意義務違反(過失)を認めた裁判例があります。

1.「産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023」
CQ406(213頁) 吸引・鉗子娩出術,子宮底圧迫法の適応と要約,および実施時の注意点は?
「2.吸引・鉗子娩出術および子宮底圧迫法は,急速遂娩以外には実施しない.(A)」
「3.子宮底圧迫法は,吸引・鉗子娩出術の補助的手段,すなわち,牽引の娩出力の補完として,あるいは,準備に時間を要するなどの事態の代替法としてのみ実施する.(A)」
「4.吸引・鉗子娩出術,子宮底圧迫法は,実施前に以下の適応のいずれかがあることを確認する.(B)
1)胎児機能不全(non-reassuring fetal status).
2)分娩第2期遷延または分娩第2期停止.
3)母体合併症(心疾患など)または著しい母体疲労のため,分娩第2期短縮が必要と判断された場合.」
「5.吸引・鉗子娩出術,子宮底圧迫法を実施する場合は以下を満たしていることを確認する.
1)(中略)
2)子宮口全開大かつ既破水.(B)
3)児頭下降度
@吸引娩出術では,児頭が嵌入している.(A)
A鉗子娩出術では,原則として低い中在(中位)またはそれより低位.(B)
B子宮底圧迫法は,先進部がステーション+4〜+5に達していて,吸引・鉗子娩出術の準備状況から,それよりも早期に娩出が可能と判断した場合のみ単独で行うことが許容される.(B)
4)児頭回旋:鉗子娩出術では,原則として矢状縫合が縦径に近い(母体前後径と児頭矢状径のなす角度が45度未満).(B)」
「6.吸引・鉗子娩出術は,原則としてその手技に習熟した医師が実施する,または習熟した医師の指導下で医師が実施することが許容される.(B)」
「7.吸引・鉗子娩出術,子宮底圧迫法は,以下に留意して実施する.
1)原則として陣痛発作時に行う.(B)
2)実施中は,可能な限り胎児心拍数モニタリングを行う.(B)」
「8.娩出術が不成功の場合,以下のように可及的速やかに他の手段に移行する.
1)子宮底圧迫法単独によって児が娩出しない場合,可及的速やかに吸引・鉗子娩出術,緊急帝王切開術による急速遂娩を行う.(A)
2)吸引娩出術の総牽引時間(吸引カップ初回装着から最終吸引牽引終了までの時間)が20分,あるいは,総牽引回数(滑脱回数も含める)が5回を超えて児が娩出しない場合,鉗子娩出術または帝王切開術を行う.(B)
3)吸引・鉗子娩出術によって児が娩出しない場合,緊急帝王切開術を実施する.(A)」
「10.吸引・鉗子娩出術,子宮底圧迫法を実施した場合,その状況と実施内容を診療録に記載する.突然の胎児(遷延性)徐脈などに対して,やむを得ずAnswer 5を逸脱した場合などには,特に詳細に行う.(B)」
「11.子宮底圧迫法の実施後には,子宮破裂の発生に注意して産婦の観察を行う.(B)」

解説
「3.子宮底圧迫法は,実施が容易である反面,Answer 7やAnswer 11にみられるような有害事象もしばしばみられる.本ガイドラインでは,子宮底圧迫法を,吸引・鉗子娩出術を補完する手技として記載している.」


2.「再発防止委員会からの提言
(1)安全なクリステレル胎児圧出法の実施について
クリステレル胎児圧出法の実施にあたっては、胎盤循環の悪化、子宮破裂、母体内臓損傷等の有害事象が起こる可能性があることを認識し、以下に留意する。
@適応・要約を十分に検討の上、数回の施行で娩出に至ると考えられるときのみ実施する。特に、胎児先進部が高い位置における実施は、児娩出までに時間を要することにより児の状態を悪化させる可能性があることを認識し、より慎重に検討する。
A陣痛発作に合わせ骨盤誘導線に沿って娩出力を補完するように実施する。また、術者の全体重をかけるなど過度な圧力がかからないように実施する。

(2)クリステレル胎児圧出法の実施中の母児の評価と分娩方法の見直しについて
実施中は可能な限り分娩監視装置装着による連続的モニタリングを行い、陣痛の状態や胎児の健常性など母児の状態を常に評価し、1〜2回試みても娩出されない場合は、経腟的に分娩が可能か否かを判断し、適宜分娩方法を見直すなど、漫然と実施しない。

(3)双胎の第1子へのクリステレル胎児圧出法の実施について
双胎の経腟分娩における第1子へのクリステレル胎児圧出法の実施は、胎盤循環不全により第2子の状態が悪化する可能性があることから、慎重に検討する。

(4)クリステレル胎児圧出法の実施に関する記録について
クリステレル胎児圧出法を実施した場合は、急速遂娩等と同様に、適応、実施時の子宮口開大度や胎児先進部の下降度等の要約、開始時刻や終了時刻、実施回数、実施時の胎児心拍数や陣痛の状態などの経過について診療録等に丁寧に記載する。

3.裁判例

○ 岐阜地裁平成18年9月27日判決
「胎児仮死の場合は,1回目の牽引で児頭が下降しなければ危険である上,吸引分娩とクリステレル圧出法の併用は,やむを得ない場合もあるが,併用可能であるのは胎児予備能が十分にある成熟児だけで,胎児仮死例等では危険であるところ,本件では,被告は,吸引分娩を開始した際には,児が重症胎児仮死状態にあると判断していたのであるから,吸引分娩を行う場合であっても,原則として1回の牽引で娩出できなかった時点で吸引分娩を中止すべきであり,おそくとも,2,3回の牽引で娩出できなかった場合には吸引分娩を中止して帝王切開に移行すべきであったし,ましてクリステレル圧出法を併用すべきではなかったものというべきである。
ところが,実際には,被告は吸引分娩開始後40分にわたり10回から15回程度の牽引を繰り返し行っており,しかも,後半20分はクリステレル圧出法を併用しているのであるから,これらの被告の行為は,当時の開業産科医に求められる医療水準に照らしても,明らかに不相当な行為であり,この点で被告には過失があったものと認められる。」

○ 名古屋地裁平成18年6月30日判決
「平成11年10月27日午後9時50分の時点において肩甲難産の危険因子及びその徴候が存在し,肩甲難産の発生が十分に懸念されるべき症例であったということができる。
そうとすると,被告病院医師としては,急速遂娩術として吸引分娩を選択するにしても,中在からの吸引分娩,クリステレル圧出法は差し控えて十分な児頭下降を待って行い,その結果,十分な児頭下降が見られず,分娩第2期遷延ないし停止や著しい母体疲労等経膣分娩に不利になる事情が生じた場合には,帝王切開に移行するという注意義務があり,平成11年10月27日午後9時50分の時点では直ちに帝王切開をすべき義務があったとまでは認めがたいものの,吸引分娩,クリステレル圧出法を差し控え経過を観察すべき義務があったということができる。
エ 被告病院医師の注意義務違反について
E医師は,児頭が中在にあった同日午後9時50分ころ,漫然と単独でクリステレル圧出法を数回行った上で,同手技と併せて吸引分娩を行ったというのであるから,上記注意義務に違反する。」

○ 大阪地裁平成14年10月8日判決
「医師Eと医師Fが,医学上相当と認められる回数を大幅に超えてクリステレル圧出法をみだりに繰り返したことによって,胎児(C)に心拍数が減少するなどの悪影響が生じたという事実を推認することができる。よって,この点に関する原告らの主張は,クリステレル圧出法の不適切な反復をいう限度で理由があり,被告は,原告らに対して,本件医療契約上の債務不履行に基づき,原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。」
「医師Eらは,医学上相当と認められる限度を大幅に超えてクリステレル圧出法を繰り返し,また,胎児仮死の疑いがあった時点で帝王切開の準備をすることを怠ったものであり,これらの事情によって,帝王切開の開始時刻が遅れたことは明らかである。すなわち,医師Eは,胎児仮死が疑われた段階で帝王切開の準備を行い,クリステレル圧出法を医学上相当と認められる回数(2回程度)施行しても胎児を娩出できなかった段階で,直ちに帝王切開に移行すべきであったのに,これらの注意義務に違反して帝王切開の開始の時点を遅らせたのであるから,同人には,本件医療契約上の注意義務に違反した過失があるといわなければならない。」

○ 大阪地裁平成14年5月10日判決
「吸引分娩の際にクリステレル圧出を併用しようとする医師は,胎児仮死の有無を調査し,胎児仮死であれば,胎児に与える負荷という危険性と,早期娩出による利益とを総合考慮したうえで,クリステレル圧出を併用するか否かを判断すべき注意義務があるというべきである。
本件では,鑑定の結果によれば,16時には胎児仮死と診断でき,吸引分娩中に胎児仮死の兆候である遅発性徐脈を含め徐脈が続いているが,D医師の証言によれば,D医師は分娩直前まで胎児仮死とは判断していなかったことが認められる。そうであるならば,D医師は,胎児仮死の有無について調査を尽くさず,吸引分娩の際に漫然とクリステレル圧出を併用したのであって,前記注意義務に違反したと認められる。すなわち,本件において,胎児仮死と判断した結果としてクリステレル圧出併用を選択した場合に医師としての裁量の範囲内であったか否かはともかく,D医師はその判断を欠いているのであるから,この点に注意義務違反が認められるのである。」
* 脳性麻痺との間の因果関係は否定

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