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肩甲難産

肩甲難産

児頭娩出後に児の肩峰周囲が娩出困難となることがあり、肩甲難産とよばれます。

1.「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2023」
CQ310(189頁) 巨大児(出生体重4,000g以上)が疑われる妊婦への対応は?
「3.肩甲難産発生時には,人員の確保に努めるとともに,会陰切開・McRoberts体位・恥骨結合上縁部圧迫法などのいずれかまたはすべてを試みる.(B)」

解説には、次の記載があります。

「肩甲難産が発生した場合の対処法を示す.ⓐは直ちにとるべき行動であり,ⓑ~ⓓは肩甲難産に対する基本手技である.
ⓐ まず,応援の人員確保に努める.新生児仮死や外傷に備えて,可能であれば小児科医師にも応援を要請する.
ⓑ まだ会陰切開が行われていない場合は会陰切開する.
ⓒ 産婦にMcRoberts体位をとらせる.助手2人が産婦の両下腿を把持して膝を産婦の腹部に近づけるように大腿を強く屈曲させる.助手がいなければ産婦自身にこの体位をとるように指示する.
 恥骨結合上縁部圧迫法を行う.恥骨結合上縁部に触れる児の前在肩甲を斜め45度下方に圧迫する.この際には,児の肩関節を内旋させ胎児上腕を胎児胸部に押し当てるイメージをもつ.本法により児の肩幅が狭くなり,完全な縦径では娩出がむずかしい肩甲も若干斜径になることで娩出しやすくなるとされる.過度の児頭牽引は避け,通常の力で児頭を下方に牽引する.
これらの基本手技で娩出されない場合.次のの手技が試みられるが,分娩損傷の危険性も高くなることに留意する.
 努責を中止させ,後在から上肢を娩出させる(後在肩甲上肢解出法またはSchwartz法).術者の手をできるだけ深く(可能ならば手掌ごと)腟内に挿入して後在上肢を解出する.
 術者の指を胎児の後在肩甲の前に当て,胎児の後在肩甲を胎児から見て後方(または前方)に回旋させながら前在にする.それでも娩出されない場合,新たに後在となった肩甲を逆向きに前在にする(Woodsのスクリュー法).
 術者の手を児の前在の肩甲の背側に入れ,肩甲骨を圧迫して,肩を内転,斜位に回旋させる(Rubin法).
 産婦を四つん這いにさせて娩出する.本法により肩甲難産82例中68例で他の手技を併用することなく娩出が可能であったと報告されている.
 ニトログリセリン0.1mg(ニトログリセリン注射液0.2mL)を数回静注して子宮を弛緩させたうえで,児頭を膣内に押し上げ,緊急帝王切開を行う(Zavanelli法).」


2.裁判例
○ 名古屋地裁平成18年6月30日判決
「一旦,肩甲難産に陥った場合,児の死亡や重篤な後遺症の発生等,その予後は極めて不良であるところ,産科臨床において,その発生を予測すべく肩甲難産の危険因子が指摘されているものの,肩甲難産の発生を胎児娩出前に正確に診断する基準は確定されていない(前記第2,1(4)の認定事実 。)
そうとすると,分娩管理に当たる医師としては,肩甲難産発生の可能性を予測させる因子を常に念頭におき,診療当時の臨床医学の実践における医療水準に即し,可能な診断方法を総合して,母児に対する分娩前及び分娩中における臨床上の危険因子及びその徴候を発見し,それを総合することを通じて,肩甲難産発生の可能性を予測し,これを前提とした分娩管理に努めなければならない。
本件においては,前記ア,イの認定事実からすると,平成11年10月27日午後9時50分の時点において肩甲難産の危険因子及びその徴候が存在し,肩甲難産の発生が十分に懸念されるべき症例であったということができる。
そうとすると,被告病院医師としては,急速遂娩術として吸引分娩を選択するにしても,中在からの吸引分娩,クリステレル圧出法は差し控えて十分な児頭下降を待って行い,その結果,十分な児頭下降が見られず,分娩第2期遷延ないし停止や著しい母体疲労等経膣分娩に不利になる事情が生じた場合には,帝王切開に移行するという注意義務があり,平成11年10月27日午後9時50分の時点では直ちに帝王切開をすべき義務があったとまでは認めがたいものの,吸引分娩,クリステレル圧出法を差し控え経過を観察すべき義務があったということができる。」

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