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東京都新宿区 産科事故を扱う谷直樹法律事務所

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分娩監視義務

分娩監視義務

産科事件では、分娩監視義務違反が争点になることが多いと思います。
実際、弁護士谷直樹が取り扱った事件の多くで、分娩監視義務違反が問題になりました。

1.分娩監視

分娩監視は、@ドップラーにより間欠的に胎児心拍を聴取する方法とA胎児心拍と子宮収縮を連続的に記録することができる分娩監視装置による方法があります。
間欠的胎児心拍数聴取は、子宮収縮直後に少なくとも60秒間は測定し、分娩第1期では15分間隔、分娩第2期では5分間隔で行う方法です。このように短時間に聴取を繰り返す前者より、いったん装着した後は自動的に記録され、胎児心音の変化を波形としてとらえることができ、子宮収縮との関連もみることができるる後者の方法がとられることが多いです。

2.「産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023」

CQ410(228頁) 分娩中の胎児心拍数および陣痛の観察は?
「1.分娩中の胎児健常性(well-being)および陣痛の評価は判読の訓練を受けた医療従事者(医師,助産師,看護師)が定期的に行う.(A)」
「2.胎児心拍数陣痛図は,3cm/分で記録する.(B)」

臨床では、胎児心拍数波形1から5のレベル分類とそれに対応した処置が行われています。推奨レベルはCとなっていますが、裁判所は、1から5のレベル分類に従った対応を医療水準と認める傾向にあります。

3.狭義の分娩監視義務違反

狭義の分娩監視義務違反は、分娩監視装置を装着して胎児心拍数陣痛図を記録すべき場合にそれを行わないことです。ガイドラインは、分娩監視装置を装着して胎児心拍数陣痛図を記録すべき場合を以下のとおり列挙します。

CQ410(228頁) 分娩中の胎児心拍数及び陣痛の観察は?
「4.分娩第1期(入院時を含め)には分娩監視装置使用までの一定時間(20分以上)装着して胎児心拍数陣痛図を記録する.(B)」
「5.胎児心拍数波形のレベル分類を行ったあとは,以下のように監視する.
1)レベル1ならば,次の分娩監視装置使用までの一定時間(6時間以内)は間欠的児心拍聴取(15〜90分ごと)で監視を行う.ただし,第1期を通じて連続モニタリングを行ってもよい.(B)
2)レベル1以外と分類したら,CQ411表3を参考に対応と処置を行いながら,経過観察とした以外は連続モニタリングを行う.(B)」
「6.「経過観察」を満たしても,以下の場合は連続モニタリングを行う(ただし,トイレへの歩行や病室の移動等で胎児心拍数が評価できない期間を除く).(トイレ歩行時など医師が必要と認めたときには一時的に分娩監視装置をはずすことは可能)
1)分娩第2期のすべての産婦(B)
2)分娩時期を問わず,以下のような場合
@子宮収縮薬使用中(A) AプロスタグランジンE2製剤(腟用剤)(プロウペス)使用中(A) B用量41mL以上のメトロイリンテル挿入中(B) (中略) D無痛分娩中(B) E38℃以上の母体発熱中(B)
3)分娩時期を問わず,以下のようなハイリスク妊娠の場合
@母体側要因:糖尿合併症,"妊娠中の明らかな糖尿病",コントロール不良な妊娠糖尿病(GDM)(B),妊娠高血圧症候群(B),妊娠・分娩中の低酸素状態が原因と考えられる脳性麻痺児,子宮内胎児死亡(IUFD)児出産既往(おおむね30週以上)(B),子癇既往(B),子宮体部への手術歴(B),TOLAC(A)
A胎児側要因:胎位異常(B),推定体重<2,000g(B),胎児発育不全(B),多胎妊娠(B)
B胎盤,羊水,臍帯の異常:低置胎盤(B)」
「7.以下の場合は分娩監視装置を一定時間(20分以上)装着しモニタリングを記録し,評価する.
1)破水時(B)
2)羊水混濁あるいは血性羊水を認めたとき(B)
3)間欠的児心拍数聴取で(一過性)徐脈,頻脈を認めたとき(A)」

4.広義の分娩監視義務違反

娩監視装置を装着して胎児心拍数陣痛図を記録していれば、それでよいというものではありません。
胎児心拍数陣痛図に従って正しく評価し、「産婦人科診療ガイドライン 産科編 2020」のCQ411 表 1〜3に従った対応を行うことが求められています。それを怠った場合は、広義の分娩監視義務違反が認められます。

○ 名古屋地裁平成16年5月27日判決
「D医師が午後4時50分までナースステーションで分娩監視装置のセントラルモニター画面を見ていたとしても、胎児仮死などの危険な状態の有無を的確に判断するために厳重に分娩監視を行っていたものと評価することはできないのであり、また、胎児仮死と診断した場合には直ちに適切な術式で急速遂娩を行い得る態勢で分娩監視を行っていたものとも認められないから、D医師は、原告Cの分娩室入室後の分娩監視義務を怠っていたものといわざるを得ない。」

名古屋地裁平成21年6月24日判決

分娩監視装置の記録が残っていない事案における准看護師の分娩監視義務違反
「午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のある時点に,変動一過性徐脈が生じ,持続・反復していたというべきであるから,その時点において,分娩監視に当たっていたF准看護師は,医師に対して上申・相談すべき注意義務があったというべきである。」

5.分娩監視義務違反と因果関係

分娩監視義務違反があっても、それで直ちに責任が認められるわけではありません。
分娩監視義務違反と結果との因果関係が争われることが多いです。
次の名古屋地裁平成21年6月24日判決は中間的な解決を行った例です。

○ 名古屋地裁平成21年6月24日判決

被告病院で出生したAに脳性麻痺による後遺障害が残ったことにつき、徐脈の発生時期が争われた事案において、准看護師の認識する前から徐脈が生じており、准看護師には分娩監視を怠った過失が認められ、同過失と上記後遺障害との間の因果関係も認められるが、分娩監視が適切になされていたとしても、一定の後遺障害の残った可能性が高いとして、その点を損害額の算定にあたって考慮し、原告らの損害賠償請求の一部を認容した判決です。

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